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自己啓発セミナー Large Group Awareness Training (LGAT)
*自己改造セミナー、自己開発セミナー
 
  自己啓発セミナーとは、数十から数百名が、数時間から数日間の強烈な講座を受講させられる個人開発プログラムのことである。これらの講座の目的は、<すべての潜在能力を発揮し、より満ち足りた人生を送る>のを妨げているものを、受講生自身が発見できるように援助すること≠セという。また、企業や公共機関向けの自己啓発セミナーのプログラムも開発されている。それらは、経営能力・問題解決のアップ、企業体質の改善、問題のある社員の減少に焦点が当てられたものになっている。
  自己啓発セミナーのグル[指導者]たちは、人々がより創造的・知性的・健康的で、お金持ちになる方法を知っていると主張する。そして、グルたちが主に焦点を当てているのは、自己評価や対人関係の構築において、個人間のコミュニケーションが果たしている役割である。
  自己啓発セミナーのグルたちは、受講生が幸せでなく、満ち足りた人生を送れない理由を知っていると主張する。そしてグルたちは、うまくいっていないのはみな同じ原因によるものであって、あるひとつのアプローチがみんなに合う≠ニ、決めてかかっている。自己啓発セミナーのグルの中には、公共のテレビ放送や書籍を媒体として使っている者もいる。ホテルの舞踏室(ボールルーム)でセミナーを開催する者もいる。大衆を自己実現と成功の道へと導くため、情報コマーシャル(インフォマーシャル)を使い、本やテープを売り歩くものもいる。
  アメリカ陸軍は、「なりうるすべてのもの(オール・ザット・ユー・キャン・ビー)」[アメリカ陸軍の有名なコマーシャルのフレーズ]になるのに、数年かかると考えているのかもしれない。ところが、セルフヘルプ[自助、自己啓発]のグルたちは、それが数時間や数日で可能だと考えているようだ。こういったグルたちはみなセルフヘルプにそっくり同じ型(クッキーカッター)のアプローチを使っているように見える。ただし、エスト、ダイアネティックス、ランドマークフォーラム、神経言語プログラミング、アンソニー・ロビンズのセミナーといったプログラムの創始者は、独自の型を使っているようだ。
  視覚化(ヴィジュアライゼーション)、自己催眠、その他の自己実現法をもてはやす自己啓発セミナーもある。しかし、ほとんどの自己啓発セミナーのプログラムが焦点を当てているのは、コミュニケーション・スキル、それから言語が思考や行動におよぼす影響である。プログラムの進行役は、これらのスキルに熟練しているはずである。トレーナーという存在は、モチベーターである。トレーナーは、その強力なコミュニケーション・スキルを駆使して他人を説得し、次のようなことを信じさせているはずだ。トレーナーは潜在能力を発揮するためのコツを知っている。そしてそのコツは、受講者に短時間で伝えることができる。そして受講生は、短時間のうちに、主観的なものかもしれないが実感のわく成果を手にすることが期待できる。その成果とは、たとえば人間関係が改善される、自分自身が以前よりもすばらしいと感じられるようになるといったものだ。そして、受講生は、<もっと上級のトレーニングに申し込んだ人を待ち受けるすばらしいよろこびと達成>のほんの一部を味わったにすぎないのだ=B要するに、トレーナーは単なる教師ではない。販売担当者なのだ。トレーナーの主な仕事とは、受講生がもっとたくさんのサービスを購入し、もっとたくさんのコースを受講するように動機づけることだ。実際、トレーナーはもっとコースを受講させようと説得する以外には、受講生のフォローアップをあまりしないという事実がある。これは、トレーナーの主な関心が、人々がより満ち足りた人生を送れるように援助することではない≠ニいうことを示している。トレーナーは、販売業務を行なわなければならない。というのもトレーナーには、本当に援助した人数に応じてではなく、勧誘した人数やトレーニングした人数に応じて、手数料が支払われているからである。トレーナーの興味は、受講生の追跡調査(フォローアップ)をすることにはない。再度(フォローアップ)の勧誘の電話をかけることにあるのだ。
  ちょっと考えてみればわかるだろう。自己開発トレーニングのグルは、情報コマーシャルのスターによく似ている。情報コマーシャルのスターは、たとえば案内広告を掲載したり、差し押さえ物件を購入したりして、何百万ドルも稼ぐ秘訣を教えてくれると約束する。しかし、本当の儲けは、案内広告の掲載にも、差し押さえ物件の購入にもない。本当にそんなもので儲かるなら、情報コマーシャルのスターは、情報コマーシャルを作るよりも、実際にそれをやって儲けようとするだろう。つまり本当の儲けは、このアイデアを他人に売りつけるところにこそあるのだ。アンソニー・ロビンズ(一九六〇〜)やランドマークフォーラムのトレーナーが、自分の本当の潜在能力を有意義でお金が儲かる方向に発揮できるなら、販売委託業務の請け負いなんかやっているだろうか? ある種のブレイクスルーが期待できる膨大な時間を――どちらかというと少ない金のために――グルのところではたらくために使うだろうか? それはない。トレーナーたちが、自分の本当の潜在能力を発揮したければ、独立して、自分で自己啓発プログラムをはじめるべきだ。そして実際にそうしてきた者たちもいるのである。
  トレーナーが、自分をもっとよくしたいと考えるように受講生を強く動機づけ、受講生が人生や人間関係を反省するように強制する。たったこれだけのことによって、自己啓発セミナーのプログラムはうまくいっているようだ。このような動機づけと反省によって、受講生は洞察を得たり、もっと洞察を得ようとする気持ちを新たにする。そして受講生は、自己実現という約束の地を探し求める人たちに囲まれ、元気と希望をもらうこともできる。結局のところ、潜在能力開発(ヒューマンポテンシャル)をうたうグルの主力商品というのは、希望(ヽヽ)そのものなのだ。それ自体は悪いものではない。誰でも希望を必要としている。希望がなければ、将来の計画を立てる意味はない。希望がなければ、人間関係に取り組んだり、目標を設定する意味がない。進む道を見つけ、目標達成の希望をふくらませる限りにおいては、自己啓発セミナーの受講も役に立つだろう。ときには、まやかしの希望でも、まったく希望がないよりはましかもしれない。
  恐れは希望に対する大きな障害となる。だから、潜在能力開発トレーナーは、成長を妨げている恐れ≠、受講生が乗り越えられるように援助してやる必要がある。たとえば、あまりに失敗を恐れ、失敗を避けようとして、目標を立てることまで避けてしまったら、目標を達成できる見込みはない。同様に、心の痛手を癒そうとすらしないほど他人から拒絶されることを恐れていたら、悩まされている人間関係を改善することはできない。存在意義のある人間になりたいと願うなら、失敗・拒絶・嘲笑・屈辱などの恐れを乗り越える必要がある。恐れに立ちすくんでいては、何も成し遂げることはできない。達成できるように力づけるには、恐怖を乗り越えるように力づけて希望を与える必要がある。力づける一番ダイレクトな方法は、もしも、一番恐れていることが起こっても、現状よりも悪くなることは何もない。そればかりか、一番起きうることは、現状よりもよくなることだ≠ニ信じさせることだ。また、あなたの信念が、成功を妨げている。だが、その信念は、望むように置き換えることができるのだ≠ニいったことを信じさせる方法もある。
  こうしたことを、レオ・バスカリア(一九二四〜九八)ほど、よく理解していた者はいないだろう。バスカリアは、一九七〇年代から八〇年代にかけて、屈指の成功をおさめた自己啓発セミナーのグルの一人である。彼は、本・講演・公共のテレビ番組で、愛こそがすべての鍵である、という考え方をひろめた。ニーチェ(一八四四〜一九〇〇)、バートランド・ラッセル(一八七二〜一九七〇)、B・F・スキナー(一九〇四〜九〇)の著した考え方を、バスカリアは大衆化した。その考え方とは、たとえば、恐れるものを愛するということの、心理的な力である。バスカリアは、しばしばこんなふうに言っていた。「敵を愛しなさい」「そうすれば、敵は倒れます!」しかし、敵というのは、必ずしも他人ではありません。自分自身が抱いている恐れも、敵となります。恐れを受け入れなさい。そうすれば、恐れはなくなります。人間関係でしくじったとき、最悪の展開とは何でしょう? 人間関係が終わることです。人間関係をしくじったことに、くよくよ悩むことも、自分の中に閉じこもることも、逃げだすことも、降参することもできます。しかし、そこから何かを学び、成長し、発展し、将来よりよい人間関係を築くための準備とすることもできるのです。それは、あなた次第です。ストア派の人が言ったように、われわれの力の及ぶものと及ばぬものを知りなさい。他人の言動を変えることはできません。しかし、他人の言動の受け取り方や感情の反応は、自分で変えることができるのです。つまり、あなたは挑戦しなければ、成功することもできません。挑戦して失敗しても、それでもまだ成功することはできます。それはあなた次第なのです=Bそして、これをあなたに納得させられるかどうかは、潜在能力開発のトレーナー次第だというわけだ。
  自己啓発セミナーのプログラムに満足している受講生も多い。しかし、これらのプログラムの主催者は、ほとんど(あるいは、まったく)次のような研究を行なっていない。セミナーで使用している手法にある程度の有効性があることを立証するために、主張の因果関係を検査すること。トレーニングが成功したか否かを明確に判断する基準を作ること。プログラムでだまされたり傷つけられたと感じた人の記録や、失敗の記録をとること。
  擁護者たちの言うほど、これらのプログラムに効果があるという証拠はない。また多くのトレーナーは、セミナーや上級のセミナーに受講生を勧誘することに、あまりに熱心すぎる。それにもかかわらず、このようなプログラムから大きな成果が得られたと感じる受講生も多い。しかし研究が示すところによれば、自己啓発セミナーを受講して大きな成果が得られたと感じられても、実際によい変化が行動に起こったわけでない(★412)。また、成果を得たと感じている人たちの多くは、このようなプログラムから他人がまったく成果を得られないかもしれないということを、理解していない。さらにこうしたセミナーに熱狂していると、健全な友人や家族からは、洗脳(→マインドコントロール)されたようにみなされてもおかしくはない。実際、そうした人たちが陥る熱狂は、不自然で釣り合いを欠いたもののように見えるものだ。そのうえ、受講前からバランスを欠いていた人は、受講によって「ブレイクスルー」を飛び越えて、「衰弱(ブレイクダウン)」してしまうという可能性もあるのだ。
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