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『村上春樹と仏教II』

著:平野純
刊行日 2016/10/6
四六判(188×130)ハードカバー。257ページ。本文1色刷。
ISBN978-4-903063-76-8 C0095
2400円(税込2640円)


誰も書かなかった村上像を描き出す

画期的評論の第2弾!

「僕の父は…僧侶でした。

僕は…そういう環境から強く影響を

受けたんです」。村上自身がかつて

こう語ったにもかかわらず、仏教と

村上作品の関係は論じられてこなかった。

本書はこの点を初めて本格的に考察。

仏教研究者である著者が、

『風の歌を聴け』から『多崎つくる』までの

主要作品に沿って、村上文学の根底に常に

仏教的世界観があることを明確に示す。

本書を読まずして、もう村上春樹は語れない。



<著者紹介>
平野 純(ひらの・じゅん)
作家・仏教研究家。1953年東京生まれ。東北大学法学部卒。
1982年「日曜日には愛の胡瓜を」で第19回文藝賞受賞。作家活動と並行してパーリ語、サンスクリット語等を習得し、仏教(特に仏教理論と現代思想の関わり)を研究。
著書『はじまりのブッダ』(河出書房新社)
  『謎解き 般若心経』(河出書房新社)
  『ゼロの楽園』(楽工社)
  『三昧般若経』(無双舎)
論文「村上春樹:<ゼロ>をめぐる現代の悪魔祓い」『国文学 解釈と鑑賞』(至文堂)所収
  「<喪失>と<再生>のリフレイン」『村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」をどう読むか』(河出書房新社)所収ほか。
Webサイト「村上春樹と仏教」(http://www.bukkyou-bungaku.com/)を主宰。

目次

 

はじめに 10

第一部 概論

──村上春樹と仏教の関わりを考える

第一章 村上春樹の「諸法空相」 16
無国籍の由来/国家のグローバル化/仏教とグローバル化の相性の良さ/
バーチャルリアリティーと仏教的イリュージョニズム

第二章 カフカ少年が最後に見た夢 24
夜行列車の夢/風のメタファー/内田樹vs藻谷浩介/
グローバル資本主義への順応性/主人公の意識との重ね合わせ

第三章 「空」は自由意志に挑戦する 36
世界は村上春樹をどう読むか/すべての境界を打破しようという意志/
「空」によるゼロ化のメカニズム/仏教の理論と実践/
「空」──解体球を解体する思想/自由意志への原理的な懐疑

第四章 村上春樹と「時間の歪み」 49
スタートラインの「時間の解体」/「生も死もない」世界/
記憶はもはや生き延びる余地がない/際限のないデジャ・ヴュ感覚/
「時間」と共に「自己」も解体する/「空の底抜け」と時間

第五章 「自己」は不可知な夢なのか? 65
村上春樹の「世界認識」の方法/理解という名の眼のない胎児/
自己認識をめぐる古典的パラドックス/ブッダの育んだ認識上の懐疑主義/
「空」は「空」の認識者をも食い滅ぼす/「よりどころのなさ」という最後のよりどころ/
「〜に非ず、〜に非ず」の哲学的理論化

第六章 「ゼロの汎神論」と人間の運命 85
「名とは何か」の問いかけ/「ブッダ」も名前だけのもの/最高の聖者の条件/
禅僧・良寛の「起源」認識/カーネル・サンダーズの「神様」哲学とは/
「相互投影」のヴイジョン/孤独から見放された孤独/
「剥製化」の世界変貌体験/村上春樹が運命にまみえるとき

第七章 村上文学にみる「運命と救済」 109
ヒンドゥー教が提示した二つの救済観/新しい「涅槃」の誕生/
村上による「村上らしさ」との戦い/鳥が巣に帰るように/村上春樹がいつも見る同じ夢/
仏教史は「空」との熾烈な格闘の連続/救済とは救済への問いかけのこと

第二部 作品研究

第八章 『ダンス・ダンス・ダンス』
──『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の負荷をはね返せ! 134
『羊をめぐる冒険』の後日談/〈羊男〉との邂逅/ホノルルの「キキ」/
六体の白骨を目撃する/『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という問題/
「回避的な曖昧化」の二段構え/主人公はなぜ「キキ」の取り戻しに失敗したのか?/
本当は最初からわかっていた/「生も死もない」思想のもつディレンマ/
必死に手を洗う主人公/マントラは「空」を飼い馴らす/なぜ踊るのか?

第九章 『国境の南、太陽の西』
──高度資本主義社会で『怪談牡丹燈籠』はいかに可能か? 166
「生」「死」をめぐる新たな線引き/後戻りできない変化/現れた島本さんの「影」/
差しだされた白い封筒/川原の葬送の儀式/瞳の奥の暗黒の空間/
実在論的な「生死」観/「島本さん」が曖昧になった真の理由/
「オープン・エンド未遂」の背景/「曖昧化」自体の目的化/
『国境の南、太陽の西』をどう位置づけるか

第十章 『スプートニクの恋人』
──「自己同一性の解体」のウィルス感染的な連鎖劇 191
恋人のすみれが行方不明になる/自己同一性の不在/観覧車の上に取り残される/
双眼鏡の向うの「もう一人の自分」/三人の「世界変貌体験」/
村上春樹の世界に孤独は可能か?/その他の四つの論点「時間の蒸発」
「『からくり人形』の身体観」「『初めからの不在』としての『空』」
「『空』思想と神秘主義」

第十一章 『アフターダーク』
村上春樹の描いた世にもわかりやすい世界 216
──「私たち」というカメラ視点/肌合いの異なる二つの物語/
「精緻な匿名の仮面」の男の登場/「こちら側」と「あちら側」の一致/
手の届かない暗黒の空間/真空(void)の視点からみた世界/
「私たちの視点」の二つのレヴェル/「強い風」が吹き始めると/
「顔のない男」とは何者だったのか?/テーマのミニマル化について/
「ポスト・ヒューマン」と「プレ・ヒューマン」

おわりに 248

主要参照文献 252


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