目次
はじめに 10
第一部 概論
──村上春樹と仏教の関わりを考える
第一章 村上春樹の「諸法空相」 16
無国籍の由来/国家のグローバル化/仏教とグローバル化の相性の良さ/
バーチャルリアリティーと仏教的イリュージョニズム
第二章 カフカ少年が最後に見た夢 24
夜行列車の夢/風のメタファー/内田樹vs藻谷浩介/
グローバル資本主義への順応性/主人公の意識との重ね合わせ
第三章 「空」は自由意志に挑戦する 36
世界は村上春樹をどう読むか/すべての境界を打破しようという意志/
「空」によるゼロ化のメカニズム/仏教の理論と実践/
「空」──解体球を解体する思想/自由意志への原理的な懐疑
第四章 村上春樹と「時間の歪み」 49
スタートラインの「時間の解体」/「生も死もない」世界/
記憶はもはや生き延びる余地がない/際限のないデジャ・ヴュ感覚/
「時間」と共に「自己」も解体する/「空の底抜け」と時間
第五章 「自己」は不可知な夢なのか? 65
村上春樹の「世界認識」の方法/理解という名の眼のない胎児/
自己認識をめぐる古典的パラドックス/ブッダの育んだ認識上の懐疑主義/
「空」は「空」の認識者をも食い滅ぼす/「よりどころのなさ」という最後のよりどころ/
「〜に非ず、〜に非ず」の哲学的理論化
第六章 「ゼロの汎神論」と人間の運命 85
「名とは何か」の問いかけ/「ブッダ」も名前だけのもの/最高の聖者の条件/
禅僧・良寛の「起源」認識/カーネル・サンダーズの「神様」哲学とは/
「相互投影」のヴイジョン/孤独から見放された孤独/
「剥製化」の世界変貌体験/村上春樹が運命にまみえるとき
第七章 村上文学にみる「運命と救済」 109
ヒンドゥー教が提示した二つの救済観/新しい「涅槃」の誕生/
村上による「村上らしさ」との戦い/鳥が巣に帰るように/村上春樹がいつも見る同じ夢/
仏教史は「空」との熾烈な格闘の連続/救済とは救済への問いかけのこと
第二部 作品研究
第八章 『ダンス・ダンス・ダンス』
──『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の負荷をはね返せ! 134
『羊をめぐる冒険』の後日談/〈羊男〉との邂逅/ホノルルの「キキ」/
六体の白骨を目撃する/『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という問題/
「回避的な曖昧化」の二段構え/主人公はなぜ「キキ」の取り戻しに失敗したのか?/
本当は最初からわかっていた/「生も死もない」思想のもつディレンマ/
必死に手を洗う主人公/マントラは「空」を飼い馴らす/なぜ踊るのか?
第九章 『国境の南、太陽の西』
──高度資本主義社会で『怪談牡丹燈籠』はいかに可能か? 166
「生」「死」をめぐる新たな線引き/後戻りできない変化/現れた島本さんの「影」/
差しだされた白い封筒/川原の葬送の儀式/瞳の奥の暗黒の空間/
実在論的な「生死」観/「島本さん」が曖昧になった真の理由/
「オープン・エンド未遂」の背景/「曖昧化」自体の目的化/
『国境の南、太陽の西』をどう位置づけるか
第十章 『スプートニクの恋人』
──「自己同一性の解体」のウィルス感染的な連鎖劇 191
恋人のすみれが行方不明になる/自己同一性の不在/観覧車の上に取り残される/
双眼鏡の向うの「もう一人の自分」/三人の「世界変貌体験」/
村上春樹の世界に孤独は可能か?/その他の四つの論点「時間の蒸発」
「『からくり人形』の身体観」「『初めからの不在』としての『空』」
「『空』思想と神秘主義」
第十一章 『アフターダーク』 村上春樹の描いた世にもわかりやすい世界 216
──「私たち」というカメラ視点/肌合いの異なる二つの物語/
「精緻な匿名の仮面」の男の登場/「こちら側」と「あちら側」の一致/
手の届かない暗黒の空間/真空(void)の視点からみた世界/
「私たちの視点」の二つのレヴェル/「強い風」が吹き始めると/
「顔のない男」とは何者だったのか?/テーマのミニマル化について/
「ポスト・ヒューマン」と「プレ・ヒューマン」
おわりに 248
主要参照文献 252
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